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アメリカ合衆国の疾病管理

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2番目に(元々存在し,さらに技術が開発されつつあった)疾病管理がアメリカ合衆国において急速に広まっていった1990年代の様子を通じ戦略論の要素をあてはめて分析してみたい。

残念ながら制度横断的な理念の指摘は難しい。

その理由は,当時,営利・非営利の様々な米国健康保険プランが,それぞれ独自に広く深いものから浅く狭いものまで何らかの「疾病管理プログラムを取り入れた」と唱えたからである。

つまり共通の理念から始まったわけではない。

これに対し,当時のディジーズマネジメントに与えられた主たる使命は明確に記述できる.それは,HMO(Health Maintenance Organization)やPPO(Preferred Provider Organization)を代表とするMCO(Managed Organizaion),およびそこで行われた一部の行き過ぎたマネジドケアに対して沸き起こった,保険加入者やマスコミ・政治家たちからの厳しい批判への対応策と表せる。

ただしMCOも全ての組織が批判されたわけではない。

1945年発足以来,地域住民に信頼され,かつ客観的な認証によっても提供医療サービス(医師・病院の双方)の質の高さで知られるカイザー・パーマネンテ(Kaiser Permanente)のような組織も存在する。

その一方,加入者の受診制限,ならびに医師のサービス提供や入院の事前保険承認制などを通じて,保険給付費を減らし,保険プランとしての利益を向上させ,株主に報いることを主目的におく営利志向の強い企業も目立った。後者についてはいくつかのハリウッド映画の題材に取り上げられるなどした結果,保険加入者と契約医師のみならず,社会一般から批判が集まり,アメリカ国会でも問題として論じられ,極端な受診制限や極端な早期退院などは州法などにより制約されるに至った。

そこで米国健康保険プランは,違った経路で支出抑制を図りつつ,保険加入者の健康を気遣っているとのメッセージを発信する必要性に直面した。

つまり保険者が疾病管理に期待した価値は,受診や診療の制限以外の方法による保険給付費の抑制と,マーケティング上欠かせないよいイメージづくりであった。

当時積極的に採用された中核概念としては,重症者介入リスク・アプローチが採用された。

当然ながらそこでの中核技術は,保険加入者の階層化技法と,コールセンターおよび電話オペレータの活用技法などになる。

さらに疾病管理専門企業が健康保険プランにプログラムを売り込むための「成功報酬制」も,米国的な中核技術の1つに含まれる。

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日本の介護分野

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まず2000年に施行された日本の介護保険を取り上げてみよう。

わが国の介護保険制度の理念については,利用者本位をはじめいくつかのワーディングが用いられているが,中でも「自立支援」が最も本質的な理念に他ならない。

なお制度発足後に明らかとなった要介護認定者の中での認知症有病率の高さを踏まえ,2005年の法改正以来,この理念は「尊厳ある自立の支援」へと進化した。

保険制度に与えられた使命は,「未曾有の高齢者増への対応」に尽きると言ってよい。高齢者増は,決して核家族化や女性の社会進出のせいではなく,医療システムの整備に伴い,世界の経済的先進国が20世紀後半に一斉に直面した「人類史上初の局面」と理解しなくてはならないからである。

そうした環境を踏まえ,「中流層の介護ニーズ社会化=普遍化」こそが,介護保険が社会に生み出した価値に他ならない。

介護保険発足前にも,富裕層は社会保障制度の支援がなくとも自ら介護・看護サービスを購入できた。

一方,低所得層は社会福祉制度の対象となりやすかった。

これに対し中流層は,1990年代までのいわゆる「老人病院」に収容された人々を除き,家族介護しか手段がなく,もっとも困っていたためである。

1989年に始まったゴールドプラン以来の成果を活用しつつ,推進エンジンとしての介護保険制度の力で一挙にサービス需給量は拡大した。

この点に関する成功をリードした中核概念は「準市場」と表せるだろう。

準市場運営のために新たに開発された中核技術は,要介護認定,要介護度別区分支給限度額,ケアマネジメント,介護報酬(介護給付費)体系,現金給付事業者代理受領方式などに具現化していった。

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病院経営と病院管理の違い

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ここであらためて,病院経営と病院管理の違いをまとめておこう。

両者は区別せずに用いられているケースも見受けられる。

さらに細かく,現場マネジメント,事業の管理,事業の経営,地域経営の4つのレベルに区分して考えることも有益である。

経営は,理念から導かれた的確な使命を果たすべく,客観的環境を踏まえた市場ポジションの選択,そこに立脚した中長期目標を実現するための戦略の策定と実行指揮を意味する。

問題点を発見しそれを意思決定課題に組みなおす力という側面から見てもよいだろう。

より積極的には,目標を「経営イノペーション_に置く意気込みの程度も戦略決定を左右する。

別の視点から見れば,経営者のプロフェッショナルカとは,事業リスクの把握に基づく選択と捉えることもできる。

一般産業では,ビジネスリスクが高い分野に乗り出す理由は,「期待リターンが高い」がゆえという場合が多い(ただしリターンが実現しない可能性も高いが)。

営利ビジネスにおけるリターンはROI(投資収益率),ROA(総資産利益率)などで測られる。

これに対し医療の世界のリターンについては,事業成長,優れた従事者の獲得,設備の更新,組織の名声,経営者や従事者の満足感などが代表的な指標と考えられる。

反対にビジネスリスクが低い場合は安定的リターンがセットになっている場合が多い。医療分野は社会保険料や税を原資とする以上,「ローリスクでありながらハイリターン」という組み合わせの継続は難しく,
仮に短期的にそうであったとしても,該当する診療分野の診療報酬水準低下要求がなされる事態に結びつく。

その点,ビジネスリスクの低さが,すなわち制度リスクやポリティカル・リスクも低いことかどうかは常に注意しなくてはならない。

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医療界におけるプロ

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医療界におけるプロフェッショナル経営者の発生はもっと遅く,アメリカ合衆国においても20世紀後半にすぎない。

経営という言葉が医療界でも一般的に用いられるようになる前は,「病院管理」などの用語が代表する管理が一定のルールの下で着実になされていれば,医療機関は存続できた。

なお営利事業であれ医療界であれ,ごく一部の「成功した」アントレプレナー(起業家,創業者)に見られる資質や実際の行動は,プロフェッショナル経営者に要求される能力より幅が広く,かつ水準も高い場合が多い。

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プロフェッショナルの定義

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現代日本において,プロフェッショナルという言葉は,「かなりの程度標準化された訓練課程や選抜課程を経てはじめて遂行できる職業に就いている人」を指して使われることが多い。

そのように理解したプロフェッショナルについては,本人が意識するか否かは別として,意思決定や行動に関して理論や一定の標準が存在する場合が一般的である(ただし上級者は理論が教える定石を超える行動をとれるだろうが)。

プロフェッショナルが遂行する職務はジェネラリスト型とスペシャリスト型に分けられる。スペシャリスト型の中でも,訓練課程がもっとも確立され,職務に伴う社会的責任を高く求められる職種の典型は,医師を始めとする医療専門職,弁護士など法律専門職,公認会計士など会計専門職であろう。

医療者は古代各地の文明発生以来,法律職もローマ共和国時代から活躍してきた。

一方,ジェネラリスト型プロフェッショナルの代表といえる経営者は,資本主義経済の成熟が生んだ新しい職業である。18世紀後半の英国を皮切りに資本主義市場経済が一国経済の過半を占めていく過程で,それ
までの商人・職人タイプの事業とは異なる近代的企業活動が推進役を担うようになった。ただし19世紀までは,書類作業を担当するクラーク層や,中間管理を担う店長・工場長・職長などがいたにしても,企業経営
に関わる意思決定は,出資者および親族などが行う形態が主流だった。

ジェネラリスト型プロフェッショナルとして想定(期待)されるもう1つの職種として政治家が挙げられる。政治家がスペシャリストとしてのバックグラウンド(主に法律家だが,現代では医療職もまれではない)を持つ例はよく見られる。周知のように政治家は新しい職業ではなく,古代ギリシアやローマに,テューダー朝英国にも,中国各王朝にも存在した。

19世紀後半になると,技術進歩を体現する設備・工場に投資する金額が大きくなるにつれ,企業の資本規模も従業員規模も大型化していった(例えば鉄鋼産業や鉄道産業)。さらに20世紀には拡大する消費者市場(自動車産業や食品産業)で活動する企業数も増大してきた。これらの変化とともにプロフェッショナル経営者の機能が広く求められていく。

やがて企業側が持つプロフェッショナル経営者に対する大きなニーズの存在が理解され,大学学部や大学院,ビジネス・スクール教育における経営リーダー教育が一般化していった。その時期は政治家に対するニー
ズに比べればごく新しく,19世紀末のアメリカ合衆国に始まり,経済的先進国でも20世紀後半と比較的最近の時代に属する。

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